3.11映画の小箱 002 『希望の国』

あらすじ

福島第一原発事故から数年後、架空の県、長島県で地震が発生し、再び原発事故が起きた。小野家が家族ぐるみで仲良くしていた隣の家は帰宅困難区域となったが、小野家はならなかった。隣地との境に杭が打たれた。

小野は酪農を営んでいた。数日経って小野家の敷地も帰宅困難区域になった。役所や息子にも説得されたが、男は痴呆の妻と家から動く気配はない。男はライフルを持って牛舎へ向かった。

同居していた息子夫婦はすぐに自主避難させた。しばらくして嫁の妊娠が発覚した。放射能のことを勉強するうちに、家の中もビニールで覆い、外に出る時には防護服を着るようになった。スーパーに行っては野菜の袋にガイガーカウンターの検査針を刺して回った。そうしているうちに夫婦は職場でも病院でも笑われるようになった。安全な場所を求めてさらに遠くへ引っ越すことにした。ポケットから鳴るその音は、そして未来は。

所感

園子音監督と言えば『愛のむきだし』や『地獄でなぜ悪い』など、エロくて血みどろで、とにかく過剰、笑ってしまうほどに過剰であるという印象だ。だからこそ彼がどう震災や原発を描いているのか、すごく興味があった。

この映画は2012年10月20日公開と、震災後かなり早い段階で制作されており、日本の映画では初めて東日本大震災と福島第一原発事故に関して、実際の被災地で撮影した作品だそうだ。

 

印象に残るシーンやセリフがいくつかあった。

一つは

「1歩、2歩、3歩って歩くのはおこがましいよ。

これからの日本人は1歩、1歩、1歩って…」

という場面。話す子どもたちは霊だ。常に前へ進むことを考えて来たばかりに迎えてしまった原発事故を揶揄する、園監督の思いのように感じた。

もう一つは

「郷土愛なんかじゃねえよ、そんなきれいなもんじゃねえ。いい思い出ってか。そんな小さなもんじゃねえ。

しるしよ、しるし。俺が生きてきた刻印だ。」

というセリフ。

妻と結婚した時に庭に植えた、大きな木を見上げて男は言った。

「出て行ってください」とある日突然言い渡されて、

「はい、いいですよ」と言えるわけもない。

 

ラストシーンには、納得できるような、納得できないような気持ちにさせられた。

 

「最初は書物から得た知識をたくさん盛り込もうと思っていたんですが、(略)本で得た知識を映画に詰め込むくらいだったら、映画にしないで本を読んで貰ったほうがいいと思うようになったんですよ。だから、途中で一回知識を全部捨てて、福島の地元で、直接会った人の話と、自分が感じたこと、経験したこと以外は入れないようにしました」

と園監督はインタビューで語っていた。この映画はフィクションでありながら、事実に基づいた場面がいくつもあったんじゃないかと思う。

基礎情報

希望の国

2012年公開。

出演・夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵ほか。

脚本/監督・園子音。

 

北海道札幌市生まれ。

東日本大震災を機に札幌にやってきた子どもたちとレクリエーション活動を行う「みちのくkids」を大学在学中に発足。代表の任務を終えてからは、旅行で東北に足を運んだり新聞や本、映画などで震災に触れ、自分の生活について再考している。2017年度より3.11SAPPORO SYMPO実行委員。