3.11映画の小箱 001 『家路』

あらすじ

東日本大震災発生後、もともと住んでいた地域が帰宅困難区域になり、仮設住宅で暮らすようになった。妻と子どもと血のつながらない義母との4人暮らし。父は議員だった。父は義理の母をかくまうためか、ずっと家業である農業をさせていた。腹違いの弟の行方はわからない。震災発生後、農業の仕事を失った。現実に目を向けられず、男は働くことができない。仕方なく家計を支えるために妻はデリヘル嬢として働く。母は痴呆がひどくなる。同じような形をしている仮設住宅の中をうろつく。そんな中、弟が帰宅困難区域にある実家にいるという知らせが入る。警官に見つからないように家業であった農業をやろうとしていた。それまでは東京で働いているはずだった。同じように農業をしていた友人は育てていた苗を東京の国会議事堂まで運ぶ道中で、運びきることなく自殺した。ある日警察から連絡が入り、弟が家へ帰ってきた。久しぶりの再会だった。弟は母を連れて帰りたいといった。

所感

仕事のこと、高齢者のこと、土地のこと、と東日本大震災、および福島第一原発事故がもたらしたことについて知るには、わかりやすく、ディープな内容はちょっと…という方や、ドキュメンタリーはちょっと…という方にも比較的見やすい作品のように思った。

同じように東日本大震災について扱った映画『彼女の人生は間違いじゃない』に出て来た女性もデリヘルで働いていた。実際に震災後、デリヘル嬢として働き始めた女性が増えていたのか、そのような報道は見たことがないし、真実もわからない、ただの偶然なのかもしれないけれど、これが意味することはなんなのだろうと疑問に思う。

印象に残ったセリフは松山ケンイチの演じる弟・次郎のセリフだった。父に気を遣って暮らす故郷での暮らしはみじめで、東京に行くときに絶対帰らないと決めていた。「何で戻ってきた」という兄からの問いにこう答えた。「呼ぶんだよ。帰って来いって呼ぶんだよ。田んぼ、畑、牛、山、全部。」。誰にでも幼少期過ごした故郷がある。大切で、だけど憎いとも思える故郷。帰れないとわかると、恋しくてたまらなくなる場所だろうと思う。

オール福島ロケ、福島の言葉で進む物語は胸に切々と迫る。美しい。

基礎情報

家路

2013年公開。

出演・松山ケンイチ、田中裕子、安藤サクラ、内野聖陽。監督・久保田直。

北海道札幌市生まれ。

東日本大震災を機に札幌にやってきた子どもたちとレクリエーション活動を行う「みちのくkids」を大学在学中に発足。代表の任務を終えてからは、旅行で東北に足を運んだり新聞や本、映画などで震災に触れ、自分の生活について再考している。2017年度より3.11SAPPORO SYMPO実行委員。