撮影紀行 003 ― 合点のそぐわない ―
南下するために、道のない海岸線から少し林道のような狭い山側の、けれど海に開けた道を進んでいく。
岩場というか崖か崕と書くか、或いはガンケと云うような隆々として険しく、波と風に磨かれた一帯であった。動物の気配がない。鳥の気配もしない。魚は眈々として知恵がありそうなものしかこの辺りに居ないようにも思えるし、貝のしぶといのや海苔や海藻の実に濃厚なものしか、此処を住処にできないような厳しさを思う。
葦の類いとやはり松がこういったところでも強く、花の季節にも冬の今にも、同じような面構えで、海と空とを太古から相手に無言しているような、三陸のひとつの形相がある。おそらくは世紀をまたぐ前から、毅い男たちが、靭やかな女たちが、この界隈に居り生き抜いてきた証のひとつであろうと思う。
この景色もまた素晴らしいと、ややと圧倒されているとゆく先、人工の鋭角の突き出しがある。築港とまでゆかなくとも船着場の役割を果たすものの姿であろう。近くまでゆくとそれははっきりしたが、震災以降にこの鋭角なコンクリートの躯体をそのまま嵩増しの敷設が為されていた。廃船がいくつか、もうここにではなく崖側の土の上にある。
何かが一致し、何かが合致しない。
私のようなこの土地の人間でない者が断片や直感だけで、一致、合致を語れるものではないであろうが、時代を、経緯を差し引いても、景色とも情景とも云えぬ違和を感ずることが、海岸線に寄り添うように仕組まれている。
屈強な縄だけが数列、井然と置かれており、いま役目が来て当然の命あるもののように、しかし防潮のために嵩増しされたであろう高い壁の内側の平場にオブジェのようにある。
2018年2月 岩手にて
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